なだれ込む移民・難民...

2016年1月、デンマーク政府は亡命希望者が所持する貴重品を没収し、受け入れ費用の足しにするという賛否の分かれる法案を可決しました。そして難民の住む場所や食料を賄うため1万クローネ(約17万円)以上の貴重品を没収してもいい権限を警察に与えました。

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この法案に対しては、各国や国連などから「ナチスを彷彿させる」や「外国人嫌悪をあおる恐れがある」といった批判や懸念の声が上がり、「恥ずべき政策」とツイートする有名出版社の記者もいました。

移民や難民を排斥するような政策に反対派の人の意見としては、「戦乱と対立を逃れ、数百キロもしくはそれ以上を歩き、命をかけて海を越えてきた人たちに難民を思い、その難民としての権限を十分に尊重し、思いやりと敬意をもって接するべきだ。」というようなものがあります。

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これはひどい政策だと、多くの人が思うかもしれません。ではデンマーク政府はなぜこのような法案を可決したのでしょうか。

デンマークは長年の間、人道主義の観点から移民を寛容に受け入れてきました。戦後の労働者不足を補うために多くの移民労働者を受け入れ、1980年代にはイランやイラクから難民を受け入れてきました。しかし、移民受け入れから20年の1990年代には外国人による問題が多発するようになったのです。もともと人口の少ないデンマークで外国人の割合が増えると、彼らは彼らだけで生活できるようになります。よってデンマーク語を覚えようとしませんでした。さらに難民として逃れてくる人たちには、十分な教育を受けていない場合も多く、それらは当然国民との対立を生みます。今まさにこれと同じようなことがデンマークで起こっているのです。
少ない人口で福祉国家を保っているデンマークに文化も価値観も異なる移民や難民が多く入りすぎると、それは治安の悪化や国全体の福祉の質の低下につながるのではないかとデンマーク政府は考えているのです。


デンマーク人S:

私は、移民問題デンマークにおいて大きな問題であると思っています。デンマークは何世紀にもわたって、移民にオープンな国です。もしあなたがデンマーク社会を覗き見れば、ドイツやフランス、ロシアなどからたくさんの人が来ていることが分かるでしょう。彼らは第二次世界大戦後、デンマーク経済が拡大し始めてから、60年にわたってその地位を安定させていきました。私たちは高齢化で労働力不足でした。そのためトルコからの若い労働者を受け入れ始めました。彼らは宗教も違えば、育ってきた環境も違うし、その多くが田舎から来ていて十分な教育も受けていませんでした。でも私たちには彼らが必要だった。彼らが工場に行き、製造を手伝ってくれることは私たちには幸せなことでしたが、いけなかったのは彼らとデンマーク人の間にある不平等をそのままにしておいたことです。働く場所は与えても、それ以外の生活の場についてはケアしなかったのです。
彼らは妻や家族、子どもも連れてきました。そして彼らはトルコのライフスタイルを維持したコミュニティーにいることを好み、その外を決して切り開こうとはしなかったし、その多くの第二世代も第三世代もデンマーク語を話せませんでした。もし彼らが毎年その特別な地域に集中するなら、政府はその場所をいわゆるゲットー(外国人の割合がとても高く、デンマーク社会とのつながりがあまりうまく取れていない場所)と認定するでしょう。
2015年、私たちは巨大な移民の波を迎えました。あなた達もCNN(ニュース)か何かで見たでしょう。何千もの人々が知らない場所に向かってただ歩いてきます。戦争から逃げている人々、より良い暮らしを求める人々などです。具体的な例を言うと、私が生まれたのは、200くらいの家庭があり500人ほどの人々が暮らす地域の小さな街の農家でした。2015⁻2016年に、この小さな場所は1200人以上もの移民を受け入れなければなりませんでした。彼らの多くが若い男で、することは何もありませんでした。ここはシリアやアフガニスタンなどの若い男たちで溢れたのです。それは当然、それをよく思わない人たちによる多少の反感を生みました。そのため最近、主流ではないいくつかの政党を除いて、デンマーク国民は移民に対してとても厳しく、規制を強めています。外国からはオープンな社会として見られてきたデンマークの一面は変わりつつあるのです。デンマークは今、良い移民にも、彼らの言う悪い移民にもとても閉鎖的な社会に向かっています。日本もまた多数の難民に対して閉鎖的です。日本が受け入れている難民の数、工場で働く難民の数はとても低い。彼らは日本に残りたいが、留まることは許されない。私には何が正しい政策なのか分からない。私の個人的な意見としては、人々が共存するにあたって統合することが大事だと思います。そしてもう少し欲を言うと、移民はある程度その地のしきたりや価値観を理解してほしい。それはイスラム教徒なら、自身の信仰を捨てて私たちの宗教を受け入れるべきだという意味ではありません。デンマークの宗教はあくまでキリスト教だと言いたいのです。しかし私は、我々デンマーク人が「もしデンマークにいたいなら、あなたの信仰は諦めないといけない」という考えに至ってほしくないのです。それは個人的な問題なのです。しかし一方で、もし人々を受け入れれば、彼らは長く、もしくは永遠にデンマークに留まるでしょう。すると彼らもまた自分たちの価値観を理解してほしいと思い始めるのは予想できます。私にはそれをうまく保護していけるとは思えないのです。

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デンマークは戦後、高齢化による労働力不足を補うため移民を多く受け入れ、今は難民を受け入れ制限しています。

高齢化社会を迎える日本が労働力を補うためにもし外国人を受け入れるとするなら、今デンマーク社会を見ておくことは意味があるのではないでしょうか。